思想・パラダイムの引き出し

古今東西の思想・哲学・宗教など(教え、ものの見方・考え方)から学んだことを、 自分用に要約して記録した覚書き(忘備録)集。

嫌われる勇気 ~アドラーの教え~

フロイトユングと並ぶ「心理学の三大巨頭」の一人として
高く評価されている、アルフレッド・アドラー

日本ではつい最近まで、その名をあまり知られていなかったが、
嫌われる勇気』がベストセラーになって以来、
多くの人に知られることになった。

アドラーは、「個人心理学 ※1」という新しい心理学を創設。

その思想・考え方は、現代の自己啓発の源流ともなるポジティブな人間観。

教育や人材育成、カウンセリング、さまざまな分野で、
今なお大きな影響を与えている。

原因論と「目的論」

アドラーは、人はトラウマや過去の体験に支配されている
という “原因論 ※5” を否定する。

例えば、引きこもって外に出られないのは、
過去の体験やトラウマのせいではなく、

「外に出ない」という目的が先にあって、その目的を達成する手段として、
不安や恐怖といった感情が作り出されている、と考える。

これを「目的論 ※6」と呼ぶ。

過去に原因を求めてはいけない、トラウマを否定せよ!

人は、過去の原因に突き動かされる存在ではなくて
なにかしらの “目的” を達成するために動いているのだ。

アドラー心理学では、

その “目的” を変え、過去を意味づけ直すことで、
誰でも人生を変えることができる

という見地に立つ。

人は常に自らのライフスタイル(人生のあり方 ※7を選択している。
自分が選んだものである以上、再び自分で選び直すことができるはず。

なのに、わたしが変われずにいるのは、他ならぬわたし自身が
「変わらない」という決心を繰り返しているから
にほかならない。

原因論から脱却し、「目的論」へとパラダイムシフトすれば、

これまでの人生に何があったとしても、
今後の人生をどう生きるかについてなんの影響もない

と、捉えることができるようになる。

わたしは「わたし」のまま、ただライフスタイルを選び直すだけで、
人は変われる
のだ。

自由になるために

自らのライフスタイルを自らで選び直すには、
人は「自由」でなければならない。

ただ、人はひとりでは生きていけない。

他者との関係性の中で生きている。

その対人関係によって、人は悩むのである。

あらゆる対人関係のトラブルは、他者の課題に土足で踏み込むこと、
または自分の課題に土足で踏み込まれること、によって引き起こされる。

人間のすべての悩みは、対人関係にある(帰結する)
といっても過言ではない。

だとすれば、他者の課題には介入せず、
自分の課題には誰ひとりとして介入させなければいい
(課題の分離)

そのためには、誰かと自分を比較したり競争するのをやめることだ。

そうすることで、対人関係の悩み
すなわち人間のすべての悩み)から解放される( 「自由」の境地)。

そう、他者のために(=他者に好かれるために)生きる必要はない

自分のために(=ありのままの自分を好きになるために)
自由に生きればいいのだ。

そのためには、他者から「嫌われる勇気」を持つ必要がある。

その勇気を持ち得たとき、人は初めて「自由」になれる。

対人関係で必要なこと

ただし、

人は、共同体(社会、世界、自然... ※12)の一員である以上、

自分のために自由に生きるには、(他者の課題には介入しなくとも
他者に関心” を寄せる必要はある。

そして他者に、「勇気づけ ※11」のアプローチをしていくことが不可欠である。

なぜなら、人は「わたしは誰かのお役に立てている」
と思えたときにだけしか、自らの価値を実感することができない
からだ。

アドラー心理学では、あらゆる対人関係は「縦」ではなく
「横」の関係( ※10)であるべき、と考える。

「横の関係」とは、お互いが違うことを受け入れながら対等に付き合う、
同じではないけれど対等」という関係。

その対等の「横の関係」に基づいて、相手に勇気を持ってもらうことが
「勇気づけ」である。

  • 勇気づけで最も大切なのは、他者を「評価」しないこと。
    説教や意見は勇気づけではない

他者を勇気づけることで、「わたしは誰かの役に立っている」
という生の実感へとつながり、
回りまわってあなたの生きる勇気にもつながっていく。

対人関係(他者とのコミュニケーション)、基本的に、
この「勇気づけ」だけでいい

アドラーが提唱する「ライフスタイル」

自己への執着を他者への関心に切り替え、
共同体感覚(「自分の居場所がある」と感じられること)
持てるようになるには、

まず、ありのままの「わたし」を受け容れること・・・自己受容 ※13」。

また「自己への執着」を「他者への関心」に切り替えていくとき、
欠かすことができないのが、
他者に対して無条件の信頼を寄せる他者信頼 ※14」。

そして共同体感覚を得るためには、仲間である他者に対して、
なんらかの貢献をしようとする「他者貢献 ※15」が必要である。

それら「自己受容」-「他者信頼」-「他者貢献」の3つを、
円環構造として循環させていく
ことが、

人が幸福になる「理想の人生のあり方」だと、アドラーは提唱する。

そうしたライフスタイルを指針にして( “導きの星 ” として掲げ)、
あとは「いま、ここ」にだけ強烈なスポットを当てて生きよう!

  • 旅人が北極星を頼りに旅するように、道に迷わないための指針

過去も見ないし、未来も見ない。

完結した刹那を、ダンスするようにエネルゲイア に)生きるのだ。

  • 過程そのものを、結果と見なすような動き

誰かと競争する必要もなく目的地もいらない

指針さえ見失わず踊っていれば、どこかにたどり着くだろう。

そのようなライフスタイルを選ぶことで、

「わたし」が変われば「世界」が変わる

世界とは、他の誰かが変えてくれるものではなく、
ただ「わたし」によってしか変わりえない
のである...

 

この記事は、アドラーの教え・思想について、
嫌われる勇気などから学んだこと(の一部)を、

自分用にまとめて記録した、覚書き(忘備録)のようなものです。

個人的な解釈も入っているので、そのまま鵜呑みにはしないように(笑)。
そもそも人に読んでもらうために書いたものじゃないですし(汗;)

もし、「この考え方、興味深いなぁ」と思われたなら、ひとまず、

あなたの(心の)引き出しに、こっそりと閉まっておいて頂ければ...

 

補記:『嫌われる勇気』各章の要点

第一章 トラウマを否定せよ!~幸せになる勇気を持って、ライフスタイルを選びなおそう~

世界はシンプルなところである。

世界が複雑に見えるのは「わたし」の主観がそうさせている。

人生が複雑なのではなく、「わたし」が人生を複雑にし、
それゆえ幸福に生きることを困難にしている。

フロイト的な原因論ではなく目的論に立脚する(見地に立つ)べき。

過去に原因を求めてはいけない、トラウマを否定せよ。
人は過去の原因に突き動かされる存在ではなく、
なにかしらの目的を達成するために動いている

その目的論の大前提として「人は変われる」。
人は常に自らのライフスタイル(人生のあり方)を選択している。
自分が選んだものであるのなら、再び自分で選びなおすことも可能である。

わたしが変われずにいるのは、他ならぬわたし自身が
「変わらない」という決心を繰り返しているから

わたしには新しいライフスタイルを選ぶ勇気が足りていない。

つまり「幸せになる勇気」が足りていない
だからこそわたしは不幸なのだ。

だとすれば、最初にやるべきことは
「いまのライフスタイルをやめる」という決心。

あなたは「あなた」のまま、ただライフスタイルを選びなおせばいい
(実にシンプルな話)

これまでの人生になにがあったとしても、
今後の人生をどう生きるかについてなんの影響もない

自分の人生を決めるのは、「いま、ここ」にいるあなた。

第二章 すべての悩みは対人関係~誰とも競争することなく、ただ前を向いて歩こう~

人は他者との関係性の中で生きている。

対人関係があるゆえに、劣等感が生じ、優越性の追求が生まれる。

また、それが歪んだ状態として
劣等コンプレックスや優越コンプレックスが生じる。

人生は平らな地平をあるくようなもの。

人生は競争ではないわれわれは「同じではないけれど対等

誰かと競争するためではなく
今の自分よりも前に進もうとすることにこそ、価値がある。

人々はわたしの仲間なのだ」と実感できれば、
競争の図式から解放されて、対人関係の悩みから逃れられる

そうなるために、アドラー心理学では、
個人としての「自立」と、社会における「協調」とを
大きな目標として掲げる。

それらの目標を達成するためには「仕事」「交友」「愛」という
3つの対人関係のタスク(人生のタスク)を乗り越える必要がある。

人生の嘘から目を逸らさず、自らの人生・ライフスタイルを、
自分の手で選ぶ「勇気」を持って...

第三章 他者の課題を切り捨てる~自由になるために「嫌われる勇気」を持とう~

すべての悩みは対人関係にあると考えると、
課題の分離」という視点を持つだけで、世界はかなりシンプルになる。

あらゆる対人関係のトラブルは他者の課題に土足で踏み込むこと、
あるいは自分の課題に土足で踏み込まれること、によって引き起こされる。

誰の課題かを見分ける方法はシンプル。
「その選択によってもたらされる結末を最終的に引き受けるのは誰か?」

馬を水辺に連れて行くことはできるが、水を呑ませることはできない。

他者の課題には介入せず、自分の課題には誰ひとりとして介入させない
これは対人関係の悩みを一変させる、
アドラー心理学ならではの画期的な視点。

つまり、対人関係の悩みから解放されることが「自由」

そうすると「自由とは何か?」の結論が見えてくる。
・・・「自由とは他者から嫌われることである」

幸せになる勇気には、「嫌われる勇気」も含まれる。
その勇気を持ちえたとき、あなたの対人関係は一気に軽いものへと変わる。

第四章 世界の中心はどこにあるか~人は、自分には価値があると思えたときにだけ、勇気を持てる~

対人関係の入り口には「課題の分離」があり、
ゴールには「共同体感覚」がある。

共同体感覚とは「他者を仲間だとみなし、そこに居場所が感じられること」

まず、自分の人生における主人公は「わたし」である。

しかし「わたし」は世界の中心に君臨しているのではない
あくまでも共同体の一員、世界の一部。

共同体において、すべての対人関係は「横の関係(※)」であるべき

  • 「同じではないけれど対等」という関係。

その先のアプローチとして有用なのが「勇気づけ」。

「勇気づけ」のアプローチで最も大切なのは、他者を「評価」しないこと。

  • もしも横の関係を築けているのなら、素直な感謝や尊敬、
    喜びの声が出てくるはず。
    (たとえ、引きこもりの子どもや、寝たきりの父親に対しても...)

どうすれば人は “勇気” を持つことができるか?
・・・人は、自分には価値があると思えたときにだけ、勇気を持てる

人が自らの価値を実感できるのは
「わたしは共同体にとって有益なのだ」と思えたとき

他者に関心を寄せ、横の関係を築き、勇気づけのアプローチをしていくこと。
これらはすべて「わたしは誰かの役に立っている」という生の実感につながり、
回りまわって自分が生きる勇気につながる。

第五章 「いま、ここ」を真剣に生きる~「わたし」が変われば「世界」が変わる~

自己への執着を他者への関心に切り替え、
共同体感覚を持てるようになるには、
まずありのままの「わたし」を受け入れる「自己受容」、

「自己への執着」を「他者への関心」に切り替えていくとき、
絶対に欠かすことができないのが、他者に対して無条件の信頼を寄せる
他者信頼」、

そして共同体感覚(「自分の居場所がある」と感じられること)を得るためには、
仲間である他者に対して、
なんらかの貢献をしようとする「他者貢献」が必要。

(それら)自己受容-他者信頼-他者貢献の3つを
円環構造として循環させていく
ことが、
あなたが幸せになる理想のライフスタイル(人生のあり方)になる。

人は「わたしは誰かのお役に立てている」と思えたときにだけ、
自らの価値を実感することができる

そこでの貢献は、誰かの役に立てているという
主観的な感覚である「貢献感」があればそれでいい。

すなわち「幸福とは、貢献感である」

その「他者貢献」を “導きの星” (指針)として掲げ、
「いま、ここ」にだけ強烈なスポットを当てて生きよう。

過去も見ないし、未来も見ない。
完結した刹那を、ダンスするように(エネルゲイア的に)生きるのだ。
誰かと競争する必要もなく、目的地もいらない
指針さえ見失わず踊っていれば、どこかにたどり着くだろう。

そうしたライフスタイルを選んで、「わたし」が変われば「世界」が変わる。
世界とは、他の誰かが変えてくれるものではなく、
ただ「わたし」によってしか変わりえない
のだ。

補記:アドラー心理学の「重要キーワード」

※01 個人心理学

アドラーが創始し、後継者たちが発展させてきた心理学の体系。
性欲を重視するフロイトに対して、
劣等感や優越への意志を重要視したもので、社会心理学的傾向をもつ。

※02 優越性の追求

向上したいと願うこと。理想の状態を追求すること。

  • 自らの足を一歩踏み出すため意思。
    他者よりも上を目指そうとする競争の意思ではない。

※03 劣等コンプレックス

自らの劣等感を、ある種の言い訳に使いはじめた状態のこと。

  • 「わたしは学歴が低いから、成功できない」
    「わたしは器量が悪いから、結婚できない」

自らの劣等コンプレックスを言葉や態度で表明する人、
「AだからBできない」といっている人は、Aさえなければ、
わたしは有能であり価値があるのだ、と言外に暗示している。

※04 優越コンプレックス

強い劣等感に苦しみながらも、努力や成長といった
健全な手段によって補償する勇気がない。

かといって「AだからBできない」という
劣等コンプレックスでも我慢できない。
「できない自分」を受け入れられない。

そうなると人は、もっと安直な手段によって補償しよう、と考える。
あたかも自分が優れているかのように振る舞い、偽りの優越感に浸る。

  • 権威づけ

※05 原因論

「今の自分の存在は、過去の行動(体験やトラウマなどの結果によるもの。
未来は過去の原因によって決まる」という精神分析学の考え方。

※06 目的論

原因論に対するアンチテーゼで、
「今の自分の存在は、過去の原因によって決められるのではなく
未来の目的によって決められる」という考え方。

例えば、ひきこもりの人は、「不安だから外に出られない」のではない。
外に出たくないから、不安という感情をつくり出している。

「外に出ない」という目的が先にあって、その目的を達成する手段として、
不安や恐怖といった感情をこしらえている。これを「目的論」と呼ぶ。

※07 ライフスタイル

人生における、思考や行動の傾向。「人生のあり方」。
その人が「世界」をどう見ているか。また「自分」のことをどう見ているか。
これらの「意味づけのあり方」を集約させた概念が、ライフスタイル。

狭義的には性格とすることもできるし、
もっと広く、その人の世界観や人生観まで含んだ言葉である。

※08 人生の嘘

アドラーは、さまざまな口実をもうけて
人生のタスク(直面せざるを得ない対人関係)を回避しようとする事態を指して、
「人生の嘘」と呼んだ。

いま自分が置かれている状況、その責任を誰かに転嫁する、
他者のせいにしたり、環境のせいにしたりして、
人生のタスクから逃げるために、自分に嘘をつき、
また周囲の人々にも嘘をついてる。「人生の嘘」

  • 上司に疎まれているから仕事ができない、
    わたしに仕事がうまくいかないのはあの上司のせいなのだ。

※09 課題の分離

われわれは「これは誰の課題なのか」という視点から、
自分の課題と他者の課題を分離していく必要がある。

あらゆる対人関係のトラブルは、他者の課題に土足で踏み込むこと、
あるいは自分の課題に土足で踏み込まれること、によって引き起こされる。

課題の分離ができるだけで、対人関係は激変する

誰の課題かを見分ける方法はシンプル。

  • その選択によってもたらされる結末を、最終的に引き受けるのは誰か?」

信じるという行為もまた、課題の分離。

相手のことを信じること、これは自分の課題。

しかし、あなたの期待や信頼に対して相手がどう動くかは、
他者の課題である。

そこの線引きをしないままに自分の希望を押しつけると、
それは「介入」になってしまう。

※10 横の関係

お互いが違うことを受け入れながら対等に付き合う、
同じではないけれど対等」という関係。

アドラー心理学ではあらゆる「縦の関係」を否定し、
すべての対人関係を「横の関係」とすることを提唱している。

  • 反対に「縦の関係」とは・・・ほめたり叱ったりして、
    相手を操作する上下関係のこと。

※11 勇気づけ

相手にまずは「今の自分」を受け入れてもらい、
たとえ結果がどうであったとしても、前に踏み出す勇気を持ってもらうこと。

上下関係ではなく、あくまで対等の「横の関係」に基づく援助。

※12 共同体感覚

他者を仲間だとみなし、そこに「自分の居場所がある」と感じられること。

  • 共同体とは、家庭や学校、職場、地域社会だけでなく、
    例えば国家や人類などを包括したすべてであり、
    時間軸においては過去から未来も含まれるし、
    さらには動植物や無生物まで含まれる。

※13 自己受容

自己受容とは、仮にできないのだとしたら、
その「できない自分」をありのままに受け入れ、できるようになるべく、
前に進んでいくこと。

60点の自分をそのまま60点として受け入れた上で
「100点に近づくにはどうしたらいいか」を考える
のが自己受容。

変えられないものを受け入れること。
ありのままの「このわたし」を受け入れること。
そして変えられるものは変えていく “勇気” を持つこと。

それが自己受容である。

※14 他者信頼

他者を信じるにあたって、一切の条件をつけない。
たとえ信用に足るだけの客観的根拠がなかろうと、信じる。

ただしアドラー心理学は、道徳的価値観に基づいて
「他者を無条件に信頼しなさい」と説いているわけではない

無条件の信頼とは、対人関係をよくするため、
横の関係を築いていくための「手段」

もし、あなたがその人との関係をよくしたいと思わないのなら、
ハサミで断ち切ってしまってもかまわない。
断ち切ることについては、あなた(自分)の課題であるのだから。

※15 他者貢献

仲間である他者に対して、
なんらかの働きかけをしていくこと。貢献しようとすること。

他者貢献とは、「わたし」を捨てて誰かに尽くすことではなく
むしろ「わたし」の価値を実感するためにこそ、なされるものである。

※16 導きの星

旅人が北極星を頼りに旅するように、道に迷わないための指針

「こちらの方向に向かって進んでいれば幸福があるのだ」
という巨大な理想。

アドラー心理学が提唱する理想(導きの星)は「他者貢献」。

※16 エネルゲイア

過程そのものを、結果と見なすような動き。

例えば、ダンスを踊るように、目的地が存在しない「いま、ここ」に
スポットを当てた行動。